太陽観測フィルターをつくろう

[ 倉敷科学センター ]


お断り

ここでご紹介するフィルム現像法は,太陽観測フィルターを作るため, 初心者が最小限の手間と道具で取り組める極めて簡易なものです。写真作品としての良質なネガを 得る手段としては適当でない現像法であることを,よろしくご承知ください。

【 目の安全のために… 】

 日食や肉眼黒点,惑星の太陽面通過など,太陽に関わる興味深い天文現象はたくさんあります。 しかし,太陽光は強烈なため,適切な道具で減光しなければ,肉眼を痛めてしまう恐れがあります。 望遠鏡を使う際には「投映法」を用い,減光フィルターで肉眼観測する際は,紫外線,赤外線を十分カット してくれるような,適切な素材を正しく選択する必要があります。

 昔は,黒い下敷きやカラーネガなどを使って,日食観測などを薦めるケースが多々見られましたが, これらの色素系素材は,まぶしさは和らげてても,有害な赤外線を通してしまうため,知らず知らず 目を火傷してしまう恐れがあります。最近は安全意識の高まりによって,これらの素材を太陽観測に 用いないよう指導するのがセオリーになってきました。(以前,教材用として扱われていた 太陽(日食)フィルターであっても,安価なものの大部分が,現在では使用に適さないという位置づけに変わっていますので 注意と確認が必要です。)特に,学校教員など指導的立場にあるみなさまには,安全のための知識を ご確認いただいた上で,観測の実践指導をしていただきたくお願いいたします。

参考 [ 太陽の安全な観測方法 ]

1.写真屋と100円ショップで調達する手作り「太陽観測フィルター」

 太陽を肉眼観測するための減光フィルターは,「日食フィルター」などの名称で専用のものが市販されています。 しかし,流通量が極めて少なく,望遠鏡の専門店でわずかに取り扱われている程度ですので,入手は困難といわざるを得ません。 もちろん安全のためにも専用品を用いるに超したことはないので,時間的余裕がある方は,ぜひ入手を試みてください。 (天文雑誌の広告欄で,通販してくれそうなお店を探します)

 白黒フィルムを上手に使えば「太陽観測フィルター」を手作りすることができます。道具を100円ショップなどで 安く調達すれば1000円前後の予算で十分です。学校のクラスみんなで日食観測をしたい場合など,大量調達しなければ ならないときには有効です。写真を現像する要領で,フィルムを真っ黒にするわけですが, 暗室のような特別な設備や技術も必要なく,初めての方でも簡単に挑戦することができます。

【 手順を確認 】
 1) フィルム,現像液を用意する
 2) 現像液・定着液をつくる
 3) 液温を調整する(20〜23℃ぐらい)
 4) 現像(15〜20分)
 5) 水洗い
 6) 定着(10分)
 7) 水洗い
 8) 乾燥
 9) マウントに入れて成型

【 必要なもの 】
 1) 白黒フィルム(24枚撮り−300円前後)
 2) 白黒フィルム用現像液(250円前後)
 3) 白黒フィルム用定着液(200円前後)
 4) 液処理する容器 3ヶ(100円ショップで調達・315円)
 5) ゴム手袋(手荒れを気にする人は用意)
 6) 温度計
 7) 時計
 8) ハサミ
 9) かき混ぜる棒(箸でも可)
 10) 洗濯ばさみ

【 あったら便利なもの 】
 漏斗(ろうと・じょうご),保存用ボトル(ペットボトルでも可),食器用洗剤


2.道具を確認しよう

 フィルムの液処理に使う容器は,調理用のボールのようなものが適当なのですが,さすがに薬品を入れた容器で 食材を扱うのは抵抗があるので(本来,現像の薬液は十分水洗いすれば害はありません),ここでは現像専用として 100円ショップで調達した直径20センチ大の樹脂製ボールを使用します。このボールが大きすぎると,浅い薬液の中でフィルムが十分に浸からないという失敗の原因になりますので,1リットル入って7〜8分目ぐらいの大きさを選ぶようにしてください。 どの薬液が入っているかが分かるように,色違いのものが用意できればベターです。

 その他,温度計は気温計ではなく,液温が計れるものを。時計やゴム手袋なども確認しておきましょう。


3.フィルムを用意しよう

 白黒フィルムは,ちょっと大きめの写真店で手に入れることができます。 さまざまな種類が市販されていますが,手に入れやすいものとしては,富士フイルム社の「ネオパン・プレスト」, コダック社の「T−MAX」などがあります。100とか400とか記載されている数字はフィルムの感度を示していますが, 太陽観測フィルターを作る上では,それほど違いを気にする必要はありません。

 ここでは感度400のフィルム,フジ「ネオパン400プレスト」とコダック「T−MAX400」を使った作例を 紹介していきます。フィルムには,24枚撮りと36枚撮りがありますが,個人用途なら,24枚撮りの長さで十分です。 学校の先生がクラスの児童向けに量産したい場合は,36コマ撮りを選んでください。だいたい40人分(40コマ分)に 切り分けることができます。 24枚撮りなら,どちらのフィルムでも300円前後で購入可能です。


4.現像液,定着液も用意しよう

 現像液も定着液も,大きめの写真店で手に入れることができます。今回,買いそろえる材料の中では 一番入手が難しく,デジカメ時代に押され,取り扱うお店も少なくなっていますので,白黒フィルムと合わせ, 電話等で事前に在庫を確認するのが無難です。

 今回の作例では,最もポピュラーに使用されているフジフィルム社の白黒現像液 「スーパープロドール(1リットル用)」と,定着液「フジフィックス(1リットル用)」を使います。 それぞれ200〜250円で購入することができるでしょう。

 現像液,定着液は,それほど強い毒性を持っている薬品ではありませんが,手洗いが不十分だと,後に 肌荒れを起こすことがあります。気になる方はゴム製の手袋を使用しましょう。また,服に付いたり, 床にこぼしたりすると,強力なシミを残すことがあります。現像液,定着液を扱うときは 汚れてもいい服装に着替え,お風呂場などで作業を進めるのがお奨めです。


5.現像液,定着液を作ろう

 水道水を1リットル(1リットル分の現像液粉末を溶かす場合)容器に入れ, ゆっくり現像液の粉末を水に流し込んでいきます。冷たい水に入れると固まりになって溶けにくくなるので, 容器の底にできる粉末の山を砕くようにかき混ぜるのがコツです。

 液が透明になるまでかきまぜますが,水道水の温度によって,溶けきるまで時間がかかることがあります。 容器の底に溶け残った粉末があっても,少量なら大丈夫。ほって置けば勝手に溶けてしまうはずです。

 定着液も同様の方法で作りますが,現像液と定着液が混ざるのはよくありません。現像液で使った容器を よく水洗いすることもお忘れずに。


 こうしてできた薬液を容器に移し,現像液,水道水,定着液の順番で並べます。3種とも無色のため, あとで区別が付かなくなったら大変です。油性マジックで容器の外側に名前を書き込んでおくと安心です。


6.フィルムを感光

 それではいよいよ,現像作業に取りかかりましょう。

 ちょっともったいないですが,フィルムを明るいところで“ビャー”っと引き出し, すべてを感光させてしまいます。感光は一瞬で済みますので,どれぐらい光に当てるべきか シビアになる必要はありません。普通ならフィルムが使い物にならなくなるところ… 。 考え方を変えれば,なかなかできない体験ですね。

【裏ワザ】
 この時点で写真店に白黒現像を依頼してしまうのが,実は一番手っ取り早い方法だったりします。 依頼する際に「フィルターを作るため,フィルムを真っ黒に感光させている」という旨を はっきり伝えることを忘れずに。失敗写真だと勘違いされて,廃棄されてしまうことがあります。

 写真店の白黒現像は標準的な黒さで仕上げられてしまうため,太陽を観測するには,黒さが足りない ケースがほとんどです。運が良ければ2枚重ねでちょうどよい濃さになることがあります。


フィルムの末端はケース内に固定されていますので,最後は,はさみで切り離してください。
7.現像処理に入る前に液温を調整

 現像に入る前に,現像液,定着液の液温を調整します。ベストは20℃ですが,経験上,現像液で20〜23℃, 定着液で18〜30℃の間に収まっていれば,それほど結果に差が出ることはありません。 逆に液温が低いとしっかり黒くならない場合がありますので,この点についてはしっかり管理してください。

 液温を上げたいときにはお湯に浸け,下げたいときには氷水に浸けるというのが基本ですが, 液温を下げたいときに,ケーキなどをお持ち帰りすると付いてくる保冷剤を薬液に入れると楽ちんです。

8.いよいよ現像処理

 液温の調整が終わったら現像処理です。
 ここからは手際が大事です。モタモタしていると,フィルムの黒みにムラを作ってしまいます。 とにかくフィルムを現像液中に一気に浸し,時計で時間を計り始めましょう。

 【 現像時間 】
 フジ「ネオパン400プレスト」15〜20分
 コダック「T−MAX400」12〜15分

 フィルムはみるみる真っ黒に変色していきます。 巻き付いたフィルム同士がくっついてしまうと,黒くなり損なう部分ができてしまうので,できるだけまんべんなく, ムラ無く,フィルム全体に現像液が触れているようにします。箸などを使ってもいいのですが,フィルムを 乱暴にかき混ぜると傷を作る原因になります。できるだけ優しく手で直接フィルムをほぐしたり,泳がせたりするのが 一番確かな方法です。  手荒れが気になる方はゴム手袋の使用をお奨めします。手に薬液が付いたとしても,十分水洗いすれば問題ありません。


 現像液と定着液を取り間違えると,フィルムはこのように透明に抜けてしまいます。もう一度,新しいフィルムを用意して 最初からやり直しです。
9.次は水洗い

 現像を終了する時間に達したら,素早く水道水の容器に移して水洗いします。ジャバジャバと30秒〜1分ほど現像液を洗い流します。

10.次は定着処理

 水洗い後も,これまた素早く定着液にフィルムを移します。現像処理と同じように,定着液の中でフィルムを泳がせながら,10分程度浸けておきます。


11.再び水洗い

 定着処理が終わったら仕上げの水洗いです。ジャバジャバっと定着液を洗い流したら,10〜15分流水に浸けて終了です。 画像ではゴム手袋をはめていますが,この行程までくれば素手で扱っても大丈夫です。


 ここでちょっと隠し味というわけではありませんが,食器用洗剤を水の中に数滴落とします。水をかき混ぜてわずかに 泡立つぐらいが適当です。フィルムとともに軽くかき混ぜて,全体になじめばOKです。

 フィルムを吊して乾燥させるときに,水滴の跡が残って見苦しくなることがあります。洗剤を入れることによって 水滴を残りにくくさせるのです。


12.フィルム乾燥

 最後に洗濯物を干す要領で,フィルムを吊して乾燥です。フィルムに付いた水滴は,2つの柔らかいスポンジで フィルムを挟みながら拭き取るという方法がありますが,写真専用のスポンジでなければ,かえって傷付けて しまうことが多いので,適当な道具がなければ無難に自然乾燥させることをお奨めします。

 結果が気にはなりますが,生乾きでさわるのは厳禁。しっかり乾くまで辛抱です。


13.ちなみに使い終わった現像液,定着液は?

 使い終わった現像液,定着液は保存して,必要なときにまた使用することができます。保存ボトル(これも100円 ショップで入手。使い終わったペットボトルでも可)に移して,涼しいところに保管しておきましょう。 一度使用した現像液は,3ヶ月もすると酸化して液が黄色く変色することがあります。 こうなれば新しい現像液に作り直してください。

 保管する必要がない場合は,大量の水道水で薄めて排水口へ流してしまうことが可能なようです。 詳しい廃棄の仕方については,現像液,定着液が入っていた袋の表記をご参照ください。
14.フィルムを切り分け,マウントなどに入れて完成!

 乾いたフィルムを切り分け,何かに張ったり,挟んだり,扱いやすいように加工していきます。 めんどくさい方は,フィルムオンリーでもOKです。

 写真用スライドマウントに仕込めば,見栄えもかっこよくなりますね。このサイズでは,フィルムを写真の1コマ分 (フィルムの穴8個分)に切り分けていきます。大きさ的には片目用ですね。


 また,厚紙を使いちょっと長めにフィルムを挟めば,両目で余裕で観測できるフィルターのできあがりです。 みなさんのアイデアしだいで,使いやすそうな太陽観測フィルターを作ってみてください。


15.太陽観測フィルターを使ってみよう!

 できあがった太陽観測フィルターで太陽をのぞいてみましょう。まぶしくない程度に太陽が透けて見えれば 大成功です。

 しかし,この太陽観測フィルターでも完全な安全性を保障できません。長時間,太陽をながめ続けると, やはり目を痛める恐れがあります。少しながめたら目を休めるために休憩,またながめたら休憩を繰り返すのが, フィルターを使った太陽観測の基本です。

 目がチカチカする,涙が出てくるなど違和感を感じたら,迷わず観測を中断してください。


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