食変光星「アルゴル」観測ガイド

 夜空の星は、いつまで経っても同じ明るさで輝き続けているという印象があります。実際、昔の人々は星々の世界を普遍な調和を持った場所だと考えていました。ところが、17世紀に「くじら座のミラ」、18世紀に「ペルセウス座のアルゴル」と、明るさが変わる星が発見され、その認識は大きく変化しました。
 こうした明るさが変わる星を「変光星」といいます。現在では、数万個が登録されており、星自体の大きさや温度が激しく変化するもの、爆発を繰り返すもの、炭素の煤(すす)をまき散らし煙幕に隠れてしまうものなど、バリエーションに富んだ様々な変光のメカニズムも詳しく分かるようになってきました。

 ペルセウス座のβ(ベータ)星「アルゴル」は、規則正しく68時間49分で2.1等級から3.4等級まで暗くなる変光星として知られています。勇者ペルセウスがつかんでいる、見る者すべてを石に変えるメドゥーサという恐ろしい魔女の額(ひたい)に輝く星で、日本語に訳すと「悪魔」という意味を持っています。
 右の画像はアルゴルが通常の明るさを保っているときと、減光したときの写真を合成し、両者を並べてみたものです。他の星が同じ明るさなのに対し、アルゴルだけが暗くなっていることが分かりますか?
 アルゴルは太陽から80光年かなたの遠方に位置しているため、望遠鏡で拡大しても一つの星にしか見えませんが、実は3つの星が回り合っている「連星」として知られています。そのうちの2つの星がお互いを隠し合うように回っているのがアルゴルの変光の秘密です。こうした複数の星が、お互いを隠し合うことで明るさが変化する星のことを「食変光星」と呼んでいます。ペルセウス座のアルゴルは、まさにこの食変光星の代表格です。

動画:食変光星の変光モデル 小さな星が主星(重くて明るい)、大きな星が伴星(軽くて暗い) Credit: ESO/L. Calçada

 明るさの変化に関係している2つの星について、もう少し詳しくお話ししていきましょう。アルゴルは重く明るめに輝いている「主星」の周りを、軽く暗めに輝いている「伴星」が回っています。伴星は、寿命を迎えつつある年寄りの星で大きくふくれあがっているため、イラストでも主星より大きく描かれています。地球から見て、主星の手前を伴星が横切るとき、伴星が主星の光をさえぎってしまうため減光が起こります。これを「主極小」と呼んでいます。一方、主星の後ろ側に伴星が回り込み、伴星の光を主星がさえぎった際にも軽微な減光が起こります。これを「副極小」と呼んでいます。この主星と伴星が回り合う周期が安定しているため、アルゴルは規則正しく68時間49分で減光を繰り返すのです。

 アルゴルの副極小は、明るさの変化がわずかなため、目で見てもほとんど変化を感じることができません。しかし、主極小はおよそ3時間かけて2.1等級から3.4等級までダイナミックに暗くなるため、初心者でも比較的簡単に明るさの変化を確かめることができます。

 まず、アルゴルの極小時刻(主極小)を調べてください。

 観測には、アルゴルと比較する周辺の星の明るさの情報も必要です。以下のアルゴルの探し方と星の明るさを示した星図もプリントアウトして観測に使用してください。

食変光星「アルゴル」の星図

 アルゴルの観測は、望遠鏡のような特別な道具は必要なく、目で星をながめるだけで十分な初心者向けの観測対象といえます。主極小時間の4時間前から4時間後までがおすすめ時間帯です。10~30分おきに周辺の星と比較し、明るさの変化の程度を目測(目で確認)します。

 しかし、最初のうちは星の明るさを見極めることに難しさを感じるかもしれません。慣れないうちは星図に「比較星」と示したアルゴルのお隣の星と比べて、アルゴルが「明らかに明るい」か「やや明るい」か「ほぼ同じ」か調べてみるだけでも十分です。経験を積んで星の明るさを見極める観測眼がつちかわれてきたら、周辺の星の明るさと比較しながら0.1等級単位の明るさの記録に挑戦してみましょう。およそ、10分おきに記録をとり続ければ、おおよその主極小時間の実測データが得られます。

 記録したデータはグラフ等にまとめます。観測時刻に対する明るさの変化を示す曲線(光度曲線)を作って、主極小の時間を調べてみましょう。夏休みの自由研究としても提出できる、立派な研究成果となります。

主極小日時の予報

 東経135.0度、北緯35.0度において、アルゴル高度が15°以上、太陽高度-10°以下で観測できる主極小日時(地心位置)は以下の通りです。実測時刻との誤差が10分程度あると思われますのでご了承願います。

2025年

主極小予想日時高度
1月19日21時27分63 °
1月22日18時17分79 °
2月8日23時12分29 °
2月11日20時02分62 °
3月3日21時48分28 °
3月26日20時22分27 °
6月15日3時15分19 °
7月8日1時45分19 °
7月28日3時25分51 °
8月20日1時54分50 °
8月22日22時42分19 °
9月9日3時34分83 °
9月14日21時12分18 °
10月2日2時03分83 °
10月4日22時52分50 °
10月7日19時41分18 °
10月22日3時44分59 °
10月27日21時22分50 °
10月30日18時11分18 °
11月11日5時26分26 °
11月14日2時15分58 °
11月16日23時04分83 °
11月19日19時53分51 °
12月4日3時58分25 °
12月9日21時37分83 °
12月12日18時25分51 °
12月27日2時31分25 °
12月29日23時21分57 °

2026年

主極小予想日時高度
1月1日20時10分83 °
1月19日1時05分24 °
1月21日21時55分56 °
1月24日18時44分84 °
2月10日23時40分23 °
2月13日20時29分55 °
3月5日22時14分22 °
3月8日19時04分54 °
3月28日20時49分21 °
6月17日3時42分24 °
7月10日2時12分24 °
7月30日3時52分57 °
8月22日2時21分57 °
8月24日23時10分24 °
9月11日4時01分84 °
9月16日21時38分24 °
10月4日2時30分84 °
10月6日23時19分57 °
10月9日20時08分24 °
10月24日4時11分52 °
10月27日1時00分84 °
10月29日21時49分57 °
11月1日18時38分24 °
11月16日2時42分52 °
11月18日23時31分83 °
11月21日20時20分57 °
12月6日4時25分20 °
12月9日1時14分51 °
12月11日22時03分83 °
12月14日18時53分58 °
12月29日2時58分19 °
12月31日23時48分51 °